






















完成:2022年
敷地:鹿児島県大島郡龍郷町
用途:宿泊施設(一棟貸しヴィラ)
構造・規模:木造1階建て
構造設計:円酒昂/円酒構造設計
施工管理:政和豊+池畑嘉教/政建設
棟梁:愛川聖也/愛建工業
建築写真:©石井紀久
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奄美大島北部の、やや人里離れた高台にある一棟貸しの宿泊施設である。
『高床、低く深い軒、緩勾配の寄棟、縁側』等といった琉球文化圏において散見される土着的建築因子を、奄美大島の気候風土というマクロなコンテクスト、農地として使われていた段々畑状のランドスケープが作り出す地形や眺望といったミクロなコンテクスト、それぞれに対し横断的に応答するよう、継承・再編集を試みた。
計画地はもともと段々畑状の農地として使われており、建築可能範囲は巨大な蘇鉄(そてつ)に囲まれた小さな緩傾斜地のみであった。その自然地形の魅力を極力損なうことなく、防風林としての恩恵も受けながらささやかに建つ建築の佇まいが、自然と共に生きてきた奄美大島の人々の生活を反映する宿泊体験の器としてふさわしいと考えた。
高床形式の基礎は、既存の微地形を造成することなく受け入れると同時に室内からの良好な眺望、雨天時の足元の悪さの改善および床下の湿気対策を実現している。これは奄美式高倉をはじめとする島に根付いた建築形式でもあり、風土を想起させるアイコンとしての効果も無視できない。
室内は18坪に満たないコンパクトな空間であるが、外周部に設けた縁側空間と深く低い軒が人の居場所を作り出しながら強い日差しや雨風に対抗する緩衝空間も生み出し、狭小の内部空間を外縁に向け延長している。この軒下・縁側を纏う形式も同様に琉球文化圏における建築ではよく見られるものである。
またインテリアはクライアントがこの施設で目指す『泊まれるアートミュージアム』のコンセプトのもと奄美大島を中心に活動している作家の作品を積極的に採用しており、建築はそれらの展示空間としての機能も担っている。
気候風土から生まれ引き継がれてきた建築形式のレファレンスによって生み出される建築は、初めてそこを訪れる人にもコンテクストを空間体験として伝える翻訳機のようなものだ。
離島という明快なコンテクストのフレームを可視化することこそ、単なる快楽的な居心地の良さだけではない宿泊体験を生み出すのである。
その宿泊体験の質こそが宿泊施設としての建築を考える上での一つの命題になり得ると考えている。
受賞
・日本空間デザイン賞2023 Longlist(入選)
出展・掲載
・TECTURE(link)
・designboom (link)
・architecturephoto.net (link)