石臼挽き手打蕎麦 蒼凛

完成:2015年
敷地:東京都渋谷区 笹塚
用途:飲食店 (店舗情報サイト)
施工:山口ワタル/サンアイクリエイト
写真:©大谷遥

クライアントである店主が発した言葉は『たかが蕎麦屋・されど蕎麦屋』というコンセプトの一言であった。
設計する上ではクライアントの思いを汲み取らなくてはいけない。しかし、いかんせんやや難解であった。悩んでいるうちに、昨今のグルメ界隈、所謂『通』という存在がそうさせるのだろうか、蕎麦の食べ方一つとっても『こうあるべき』というような【型】が先行し、本来の食事の持つ『美味しいものを無心に食べる楽しみ』が置いてけぼりになっていることへの違和感にたどり着いた。
料理が【本物】であれば、【型】など関係なく誰でも食事を楽しむことができる、そういう意味での『たかが蕎麦屋・されど蕎麦屋』なのだということである。

そうなると、緊張感のある今っぽい蕎麦屋を作るわけにはいかない。
むしろ目指すべきは大衆食堂寄りの老舗蕎麦屋なのだが、老舗感というのは長年を経て素材感が伴いようやくたどり着くものであり、新しい店舗でそれはフェイクになってしまう。
そこで手がかりになったのが路地と客席の距離感と、街路から店舗に入るまでのシーンの切り替りだった。敷居の高さ=入りにくさ なのだとしたら、そのパラメータの数直線上のどこかに答えがあり、それを建築の要素で表現することが可能という仮説を立てたのである。
アプローチに小さな坪庭を配置し、そこに建てた竹ルーバーにより視線を制限した。
ルーバーは直線状に配置せず、複層にすることで街路を通り抜ける人の立つ位置により店内の見え方が変わりゆくものにしている。
内部の仕上げは極力高価な材料は使わず、飲食客が触れるテーブル・椅子だけは栃の無垢材とした。栃は杢目が美しいが柔らかい材のため小さな傷がつきやすく、寧ろそれが前述の大衆感・老舗感を生み出してくれることを期待した。
栃の杢目に呼応するように、照明には割れガラスのペンダントライトを使用している。
また客席にはゆとりを持たせ、店側のオペレーティング上無理のない席数で抑えた。

オープン直後から雑誌にのるなど活躍めざましく、今は笹塚を代表する蕎麦屋の一つとして毎日『本物の蕎麦』を提供している。

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